ホーム > 2008年レポート > 第124回 「欲」

第124回 「欲」

開催日時
平成20年11月28日(金) 14:00~17:00
討議テーマ
開催場所
東京ウィメンズプラザ
参加者
土岐川、下山、大瀧、望月

討議内容

今回は、「欲」と題して議論した。欲について考えようとしたのは、世の中が物の豊かさ、便利さ、快適さといったことで確かに進化してきているように見えるけれど、その一方で、不安に満ちた社会、不安を抱えた日常生活を多くの人が送っていることに、なんともいえない矛盾を感じ、その根底には漠としてはいるけれど、人間の欲が深くかかわっているのではないかという思いがあったからである。

科学技術の発展によって、世の中は、便利さと快適さであふれている。携帯電話や、インターネットの発達は、いつでもどこからでも誰とでも自由にコミュニケーションができるようになったし、情報を得ることができるようになった。携帯電話によるゲームやエンタテインメントは、電車の中でも、歩いていても、そして、学校でも、ひとりで自由に楽しめる世界を生み出してきた。

自動車も快適で、魅力的なデザインのものになってきたし、いつでも自由にドライブを楽しむことができるようになった。新幹線、飛行機、といった運輸機関の発達も、多くの人たちに日本中を、そして世界中を自由に旅する機会を与えてくれている。

コンビニエンスストアや外食産業の普及によって、いつでも、気楽にものを手に入れ、食べることができるようになってきた。全てが便利で、快適になった。それはそれでいいはずなのだが、そうした利便性や快適さを手に入れるためには、それだけ余計にお金もかかるようになってきた。その利便性や快適さが、生活を維持していくために必要な、いわゆるライフラインとしてのものやシステムであるならば、それは人間生活をより豊かにし、時間的余裕を与え、快適な生活を過ごすことに寄与していることになるのであろうが、最近のものの開発や、サービスの提供は、どこかしら、そうした人間生活にとって不可欠なものから、快楽的なものへとシストしてきているように思える。

一週間ほど前の新聞に掲載されていた今年度のヒット商品ベストテンの中に、ウィ―、DS、PSDといったゲーム機が顔をそろえていた。一昔前までは、本当に生活に必要な、どちらかといえば、衣、食、住、ライフラインといったものに係わったものが、ベストテンであったのだが、ここにきて、娯楽商品に人の関心が移ってきている。それは、快適さから快楽へと、商品開発がシフトしてきていることの現れであろう。

戦後雨後の竹の子のように現れてきた様々な企業の多くは、人の生活を便利で、快適にしたいという夢と、世のため、人のためという思いがあって発展してきた。ところが、現在社会における企業のあり方は、生活者に物を消費させよう、買わせようという、利潤追求のためなら何でもあれ的に、ひたすら人間の欲をそそるものを開発してきている。そのために、社会は、いつしか皆快楽を求めて消費し始め、そのためにお金が必要となり、それだけ余計に働かざるをえなくなってきているのではないだろうか。

昔の遊びは、仲間がいなくては成り立たないものが多く、そのために人を集めたりしていたものだ。誰かに用事ができたり、日が暮れたりしたような場合には、遊びはそれで終わりであった。ところが、今の時代、一人で遊ぶことができるようになったために、時間を忘れ、身体がつかれきるまで遊ぶことができるようになった。それは、人に気を使うことへの抵抗や、途中で遊びを中断することへの抵抗といったものを排除し、一人で、誰に気を使うこともなく、時間を忘れて楽しむことができる時代になったということだ。それは、自分の好きなことはとことんやり、少しでも嫌いなことはやらない、耐えないといった心を作り上げてきてしまってはいないだろうか。要するに、何かをしたいという欲に任せて、欲のおもむくままに、その欲を抑制することなく、欲の芽をどんどん伸ばしてきている時代になってきてしまっているということだ。

欲を満たすためにはお金が必要だし、そのために、身体が壊れるほど働かなくてはならなくなってしまった。現代社会が、利便性と快適さを助長してきた一方で、その社会の中で生活している人たちの心に不安な気持ちがただよっているのは、この社会が、人間の欲を益々増長させる社会になってきてしまっていることにあるのではないだろうか。

欲には、欲求と欲望がある。欲求は、動物的なもので、命を維持していくためには不可欠なものである。それと欲求は、充足されると自然に消えていってしまう。それは、神の摂理とでもいえようか。ところが、欲望は、人間だけにある精神世界で生まれてくるものであり、ゲームや、ギャンブルに見られるように、充足ということがない。次から次へと新たな世界、未知な世界が現れ、欲望をかきたてる。だから、自らがその欲望を抑制しない限り、益々エスカレートしていってしまう。時を忘れ、お金を使い、生活自体を破壊的なものに落としめていく。それは、麻薬そのものである。

これからの時代、人の欲望をくすぐる消費世界が益々台頭してくることであろう。そうした社会の中で生きていくためには、一人ひとりがいかにそうした欲望を自制するか、その自制心をしっかりと育て上げることが必要なように思われる。

次回の討議を平成21年1月30日(金)とした。       以 上

コメント:0

コメントフォーム
情報を記憶する

ホーム > 2008年レポート > 第124回 「欲」

このサイトについて
月別アーカイブ
最近の投稿記事
最近のコメント

Page Top