- 2005-04-08 (金) 0:52
- 1991年レポート
- 開催日時
- 平成3年10月29日(水) 10:00〜13:00
- 開催場所
- KDD目黒研究所
- 参加者
- 古館、多田、佐藤、望月
討議内容
今回は、前回に引続き、幸福について様々な角度から議論した。先ず始めに、多田さんから提供されたアランの幸福論に関する資料を基に、アランの述べる幸福について考えてみた。アラン自身は、様々な立場に立って、散文的に幸福について述べているが、それらをグルーピングしてみると5段階の幸福がそこには存在していることが分かる(この資料についてはすでに配布済み)。これらの幸福の特徴は、下位の段階の幸福から上位の段階の幸福に向かうにしたがって、本人の努力や、才能との関わりが強くなり、それだけ、心の奥底に訴える感銘度が高く、幸福をより強く感じることが出来るが、どれも好ましい状態をそのまま持続できないもので、後ほど述べるような、東洋的な悟りの境地に共鳴するような幸福については述べられていない。この点に関して、多田さんから、釣り人と幸福感について次のような面白い提言があった。アランの幸福論を基にして作られた幸福の5段階説を基本にして、釣り人の幸福感を表現すると以下のようになる。釣り人の第一段階の幸福として、釣りを見て楽しむ幸福感がある。次の段階として、自分も釣りをして楽しむ幸福感。さらに、沢山釣ることによって満足を得る幸福感。四番目の段階として、大物を釣ったことによる満足感からくる幸福感。そして、五段階としては、人がなかなか釣ることの出来ない魚を釣ることの出来た喜びからくる幸福感である。さらに、アランの中には現れてこない六番目の幸福として、魚をとることに目的を感じないで、ただ魚釣りを楽しむ幸福感である。この六番目の幸福感は、日本文化の伝統である、茶道や華道、さらには剣道など、道を求めた達人の境地でもあろう。これらの幸福に関するいくつかの段階について、論語に次のような名文がある。
知る者は好む者にしかず、好む者は楽しむ者にしかず
引き続いて、古館さんから、古館さんご自身が感じたり、書き物や、直接人から聞いたことなどから得た幸福についてまとめられた資料を基に幸福感について考えてみた。熊さん八っあんの底抜けに明るい生き方も平凡ではあるが幸福なのではないか。それとは対象的に、刑務所の独房で、自由の法悦を味わったというガンジーの幸福もある。これらの幸福感をまとめてみると、熊さん八っあんのように平凡な生活の中で普通に味わえる幸福感、夢を見て、努力することによって得られる幸福感、自分を変えないと得られない幸福感の三つに分けられる。
歴史に残る偉大な思想や文学を生み出した故人の語る幸福感(すでに配布済みの資料「先人の語る幸福論」)を上で考えた幸福論と対比してみると、その多くが、平凡の中に見いだしうる幸福感ではなく、自分自身を変える、あるいは、自分の中に元々存在していた純粋なものに、意識の明りを灯したことによって得られた幸福感である。これに関する議論内容は、「先人の語る幸福論」の最後に述べた私信とほぼ同じであるので再録することにする。
先人の語る幸福感をまとめてみると、それぞれの人達が共通に感じている幸福感は、自分自身の中に厳然と存在している自己に目覚め、その自己の意志にしたがって生きることであるようだ。そして、その自己に目覚めた人であるから、不易的な思想なり芸術なりが残せたのであろう。また、真の幸福は、受動的で、刹那的な喜びにあるのではなく、自らの意志によって開拓していく能動的な中に見いだせるものであるということである。すなわち、受動的な幸福感は、他者との比較のうちに存在する喜びであり、それは他者の変化によって、喜びにも悲しみにも変化してしまうものである。これに対して、能動的な幸福は、その幸福感を生み出しているのは自らの心の中にあるのであって、それは、外乱によって妨げられる幸福ではないのである。また、この能動的な幸福、すなわち自己との遭遇をなし得た人に共通していることは、何年間か、社会の流れに惑わされずに、自らを静かに見つめることの出来る時間と空間とを得ていることであろう。
以上一般的な幸福論について討論した後、我々に喜びをもたらしてくれるディズニーランドを形作っているその基本にある幸福感について、多田さんの提供された資料を基に、多田さんからその考えを伺った。この件については、別紙の資料送付によって、討論内容の報告としたい。またこれに関連して、ディズニーランドや茶室のように人間が望む場に関して、人間の欲求する二つの時空間概念から考えてみた(別紙資料参照)。
これらの討論を踏まえ、フィールドワークとして、ディズニーランドを見学した。各人それぞれの考えを持ち、多角的な視野から見学したことと思われる。当日は、秋晴れの晴天に恵まれ、また、ウイークデーということもあって、園内は混雑もなく、少ない待ち時間で多くのアトラクションを見学することが出来た。
実年齢としては、二度日の成人式をすでに迎えた人達が、未成年のような気持ちになって楽しんだ一日でした。
この研究会は、この11月でちょうど一年を迎えます。一周年記念と、忘年会とを兼ね、次回の研究会は、12月12日(木)に、可能であれば一泊の予定で、関西にて開催する予定です。まだ、場所や、開催時間については未定ですが、決まり次第連絡致します。多数の皆様が出席されるよう願っております。
配布資料
- 幸福論(古館)
- 住まいと暮しの文化シリーズ 刑務所は天国
- 聖地の構造−ディズニーランドの幸福論
- サービスの人間心理学的分析
以上
- 新しい記事: 第11回 「道具と変化」
- 古い記事: 第9回 「幸福」