- 2009-04-14 (火) 21:45
- 2009年レポート
- 開催日時
- 平成21年3月27日(金) 14:00~17:00
- 討議テーマ
- 今
- 開催場所
- 東京ウィメンズプラザ
- 参加者
- 下山、大瀧、望月
討議内容
今回は、「今」と題して議論した。私達は、今という言葉をよく使う。その大体の意味は、時間的に過去でもなくて、未来でもないということを漠然とではあるが抱いている。今ここで話しているこの時。というふうに、時間の中に今はある。では一体時間とはなんなのだろうか。
だれでもが経験することであるが、楽しいことをしている時には、時間の経つのを早く感じ、嫌なことをしている時には、なかなか時間が過ぎていかないことを感じる。一体これはどうしてなのだろうか。楽しいことをしている時には、あることに意識が集中しているために、時間を意識していないというのが根底にありそうだ。時間を意識しない時には、気がついてみると時間が早く過ぎ去ったような気になる。これに対して、嫌なことをしている時には、早く終わらないかと時間ばかり気になるために、時間がなかなか過ぎていかないことを感じる。同じことが、寝付かれない時など、時間がなかなか過ぎていかないことを感じるのに対して、熟睡している時には、気がついてみると、もう何時間も過ぎていたというようなことはよくあることだ。
このことをよく考えてみると、時間は意識の世界で生まれてくるということではないだろうか。楽しいことをしている時には、その楽しいことをしていることしか存在していない。その楽しさだけが意識を支配している。だから、そこには時間はない。ところが、意識が時計という時間を計測するものに移った瞬間から、時の流れが生まれてきて、そこには、時計の針が示す時が流れていく。あるものに集中している時には、意識の世界は、時を意識せず、ただその集中しているものに意識があるだけで、それはまさに今を感じていることになる。あり続けている今を感じているだけだ。
その営みは、昆虫や動物の行動と共通する。たとえば、家の中を這い回るゴキブリは、触角や、その他の感覚を用いて、外界から入る様々な刺激を総合的に判断して、瞬時瞬時の行動をとっている。餌の匂いを察知した時には、その方向に向かってただひたすら動く。それは、瞬時瞬時に入る刺激を判断材料にして、次の行動をとっているだけだ。そこには時間はない。ゴキブリの世界には時間はない。過去も、未来も、ゴキブリの世界にはない。なぜなら、ゴキブリは、今感じているそのことの中だけで生きているからだ。
ところが、人間の場合には、このゴキブリと同じように時間のない世界と、ゴキブリにはない時間を意識する世界との両方を持って生きている。楽しいことをしているのは、まさにゴキブリの世界と共鳴する世界にいることになる。これに対して、嫌なことをしている時は、ゴキブリにはない世界で生きていることになる。人間だけが時間と係わる世界を持って生きている。だから、時間は人間が作り出したものといえる。
この世に存在しているのは、ゴキブリの世界だけなのに、人間は、過去も未来もあるかのように意識の世界で仮想の世界を生み出していることになる。そして、今というその言葉の意味の中には、ゴキブリの世界、すなわち実際に存在している世界をさす意味と、人間の作り出した時間軸上での過去と未来との間に位置する今との二つの意味を含んでいるように思う。すなわち、今という言葉の指し示すものの中には、人間の概念の中にある時間としての今と、ゴキブリの世界であるまさに実際に存在しているそのものとしての今とがあるということだ。
だから、人間の陥ってしまう過ちは、この概念の中に存在する今と、ゴキブリの世界である実際に存在している今とを混同し、その実際に存在している今を時間軸上の今へと移行させ、その今と同じ時間軸上にある過去と未来とが共に実際に存在しているかのような錯覚に陥らせてしまうところである。すなわち、概念の世界にしかないのに、それがあたかも存在しているかのような錯覚に陥ってしまうということだ。だから、今は、実際に存在し、その今を感じている人はその今の中で生きている。ただそのことだけが真実なのに、未来を頭の中で予測し、死を作り出してしまっているのである。
ゴキブリ自身には死はない。あるのは、生きている今だけだ。人間も実際にはそうなのだが、人間の意識が仮想的な死を作り出して、その仮想的な世界の中で苦悩することになってしまったのだ。この宇宙に存在しているのは、今の今だけだし、その今が絶えることなく続いている。ただ、人間には、記憶力や、予測力といったものがあるから、そうしたもので、思い出や希望といった過去や未来を作り上げているということだ。
我々が生きているのは、今の今だけ、その今が終わることなくあり続けている。その今の中に、生命があり、生命活動があるということ、そして、あり続ける今が、我々を作り宇宙を作っているということだ。
次回の討議を平成21年5月22日(金)とした。 以 上
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