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第15回 「情」

開催日時
平成28年1月15日(金) 14:00~17:00
討議テーマ
「情」について
開催場所
東京ウィメンズプラザ
参加者
下山、伊藤(雅)、望月

討議内容

今回は情について議論した。情はじょうともなさけとも読むことができるが、二つのもつ意味は大きく異なっている。今回は、じょうについて議論してみた。議論を始めて分かってきたことは、情がなかなかつかみどころのないものであるということだ。情を用いた言葉は多い。感情、強情、薄情、情緒、心情、愛情、表情、情熱、情報、無情などなど。こうした一つ一つの単語の意味は、それなりに議論もでき、その意味するものは容易に理解することができる。ところが情そのものに関しては、議論していけばいくほど、つかみどころのないものであることが分かってきた。

 心と情とは、どこかで重なり合っているのだろうが、心のもつイメージは、器のようなイメージがある。その器の中に様々なものが入れられ、それが様々な心模様となって感じられてくるのだが、情は、それと同じような意味合いを感じもするが、器というよりも、もっと生き生きとしている何かのように思われる。それを譬えて表現すると、心が個体のイメージを抱かせるのに対して、情は液体のようなものに感じられてくる。何もない時には、液体も個体も表面は同じように平たくなっているのだが、そこに何らかの刺激が投げ込まれると、心は、単にその器として、投げ込まれたものをそのまま保持しているのに対して、情は、投げ込まれたものによって波打ち始める。要するに、情は、何らかの刺激によって、それ自身が動き出し、新たなエネルギーを生み出しているように思える。

始めにいくつか挙げた情を持つ単語、感情、強情、薄情といったものは、情が心のエネルギーであることを考えるとそれらのもつ意味合いがより具体的にとらえることができてくる。要するに、情がなければ、心が揺り動かないということではないだろうか。どんなに感性豊かであって、外界からの刺激に対して、特有な思いを抱いたとしても、情がなかったなら、その思いを表現することなど起きてはこないであろう。詩の読めない詩人は詩人ではないという言葉があるが、詩人を詩人たらしめているのは情の存在のような気がする。

情熱という言葉がある。それは、まさに情が心のエネルギーであって、情が豊かであることは、その人の心が感動的であり、感激的であり、芸術的であるということではないだろうか。激情という言葉があるが、そこでも、情の激しさ、すなわち感情が人一倍、その程度が病的なものという意味合いを感じさせる。

こうしたことを考えてくると、人間行動、いや生物の行動の源には情が強く係わっているということが分かってくる。生物の本能にしても、情が基本になければ本能行動をとることなど起きてはこないだろう。

人間の抱く心の世界を知情意として三つの要素があると考えられているが、知や意は、それだけでは何も生み出しはしない。情があってはじめて行動が起こされてくる。そういう意味で、情というのは、生物の行動の基盤となっているものなのではないだろうか。それを譬えて表現するならば、情とは、心の大地のようなもので、その心の大地の中に様々な種が植え込まれると、その種が情としての心の大地からエネルギーをもらって芽生え始めてくる。そんなふうに、情とは様々な心の活動にエネルギーを与えているもののような気がする。

知の表現と考えられている数学にしても、数学者であった岡潔が表明しているように、知と情とが認めあってはじめて新たな数学が生み出されてくるという。そのことを岡は次のように述べている。

「数学の体系に矛盾がないというためには、まず知的に矛盾がないということを証明し、しかしそれだけでは足りない、銘々の数学者がみなその結果に満足できるという感情的な同意を表示しなければ、数学だとはいえないということがはじめてわかったのです。」

われわれは、意識的にとらえやすい知的なことが最も大切なもののような考えに陥ってしまっていて、道徳や倫理の問題に関しても、それを知的に教育しようとしているが、先の岡潔の数学論に見られるように、意識できないところで活動している情こそが道徳や倫理の源になっているのではないだろうか。そのことに気付かない現代人、特に有識者といわれる人たちが知的に物事を提案し、それが教育や政治などに反映されていくために、教育も社会もますますおかしくなってきているのではないだろうか。

こうしたことを考えてくると、現代社会は、知情意の内の知が優先し、心のエネルギーの源である情に対して薄情になってきているように思えてくる。情を育てる教育、社会環境というのが、今まで以上に求められる時代になってくるように思える。

次回の討議を平成28年3月18日(金)とした。       以 上

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